空飛ぶメジナのワイン紀行

国内外を飛び回っていた旅ジャーナリストがなぜかインポーター稼業に足を踏み入れた。そしてフランスに入り浸るようになり、ついにブルゴーニュで大学生活を送ることに・・・

午前9時の酔っ払い           ブルゴーニュ 栄光の三日間 

 午前9時でも新宿歌舞伎町あたりだと、前夜から飲み続けの人とかホストクラブからの帰りの人とか、ちょくちょく酔っ払いを見かけるけれど、今回は由緒正しく朝から飲み始めたゆえの出来事。
 『栄光の三日間』の名前で知られているボーヌのワインイベントのためである。
 今年は11月13日から15日までの3日間、いろいろなイベントが行われるのだが、メインはオスピス・ド・ボーヌで行われるワインオークションである。その名も“149e Vente aux Encheres des vins des Hospices de Beaune”。
 いやぁ、149回目なのか、単純計算しても初回は1860年。日本の幕末だ。いやはや。

 オークションでは、今年収穫したブドウで作ったワインを樽単位で競りにかける。そのワインを事前に味見する、というのがこの日のデギュスタシオンだったわけだ。
 もちろんわたしが買うわけではないが、入場料を払えばだれでも試飲できるみたい。ただし、この日は業界関係者のみとのこと。それが午前8時半から始まるのだが、例年すごい行列になるらしく、開始前には並んでおこうということで、しかし電車が1時間に1本しかなかったので、わたしはなんと朝の6時に起きてやってきたわけである。
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 こんな朝っぱらから、と思っていたけれど会場にはすでに人が集まっていた。少し待って8時半と共に入場。
 会場は、近年新しく作られたオスピス・ド・ボーヌの保管倉庫で、中心部からは少し離れたところにある。地下にの会場に降りると、いやぁ、壮観! 新ダルがずらーっと並んでいる。オークションに出されるのは赤30、白15の全部45生産者。これを順番に味わっていく。

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 長いスポイトのような器具を用いて、すべて樽から直接注がれる。通路は片道一方通行状態で後戻りはできず、リストの順番通りに次から次へと進む。10種類目を過ぎたあたりですでにしんどくなってきた。なにせ、前夜よく寝ていないし、低血圧で朝は弱い。朝ごはんだって食べてない。からっぽの胃袋と寝不足という酔っ払うには最適のコンディション。
 さらに、ワインはすべて今年のミレジムで、ということは収穫から約2ヶ月、あと数日で解禁になるボージョレヌーボーと同じ程度の期間しか経っていないわけで、あちらは早く熟成させるために特別の製法を用いるのだが、こちらは正統派のワイン造りだから、つまりまだ全くもってワインとしては未完成で、タンニンはがちがち、熟成のじゅの字も始まっていない、味わってどうこう、という段階にはないものなのである。だから、飲んで楽しい、おいしい、というものでは全然ない。
 そんなワインに、わざわざお金を払って、早朝から行列して、それでも飲んでみたいのは、やはりオスピスドボーヌの競売にかけられるワインがブルゴーニュの歴史を背負った特別な存在であり、その全種類を味わえるチャンスなどまずないからだ。

 体力的にはきつかったが、それでも飲み進めるうちに、樽ごとにちゃんと個性は見えて来る。できのいい、悪いも読み取れる。日曜日には、これらの樽がオークションにかけられる。わたしが高評価を与えた樽にどんな値段が付くのか、楽しみだ。

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ユネスコの会議 3日目 日本大使がやってきた


今日も朝から真っ青な空が広がる快晴。

遠くに熱気球が浮かんでいた。最近、観光用にブルゴーニュの風景を空から眺めるプログラムが用意されている。きっときれいだとは思うが、恐ろしく寒いとも想像される。

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 日本だと寒さ対策を考えると思うが、こっちでは絶対やってないと思う。なにせ、昨年12月、ディジョンに観覧車が登場したが、ガラス窓もビニールの覆いも何もなしの吹きっさらし。気温は当然氷点下。それでも利用者がいた。所詮、フランス人とは体感温度が違うのである。


さて、最終日は、ちょっとおまけっぽい発表が午前中にあり、その後最後のまとめでミニシンポジウムが行われた。

9h15 : Patrice BECK (Universite de Lille III) et Jean-Marc BORDET (Realisateur, UP Video) : projection et presentation du film ≪ Les pressoirs des ducs de Bourgogne ≫
ディジョン近郊シュノーヴという地区にある15世紀から使われていたプレソワール(かつてはどの農家も自前の圧搾機械を持っていたわけではなく、専門のところに運び込んで搾ってもらう)の復元を記録したドキュメンタリーを上映。

10h15 : Dominique FERRIOT (International Council Of Museums) ≪ Du paysage au musee: quel avenir pour les collections de la vigne et du vin ? ≫
ワイン博物館資料館のあり方
10h45 : Madeleine BLONDEL (Conservateur en chef du Patrimoine. Directrice des Musees d'Art sacre et de la Vie Bourguignonne. Dijon) : ≪ Celebrer le bourgogne au Musee de la vie bourguignonne ≫. ディジョン市内にあるブルゴーニュ博物館の紹介。


Table ronde de cloture : Patrimoine materiel et immateriel des regions viticoles
11h15 - 12h15 : Georges HADDAD (Directeur de la division Education, Enseignement Superieur de l’UNESCO), Jean-Pierre PERRIN (President de l’Academie Internationale du Vin et de l’Academie des Vins de France), Regis GOUGEON (Universite de Bourgogne).

 ミニシンポジウム。話題の中心は、ずばりユネスコ世界遺産の登録について。
 どのような要件、基準があるのか、なぜワイン産地のぶどう畑は世界遺産足りうるのか、ほかの農業の景観ではだめなのか。また、おなじワイン産地でもどの産地がよくて、どの産地がだめなのか、その基準はどこにあるのか。
 ワインにはテロワールという言葉が存在するが、ある地域と産物や歴史が密接につながり、そこからその地域の特定のイメージが象徴化できる、つまりそこに付加価値が生まれる、という理屈になるのだが、ワインが特別扱いされている感は否めなく、そこには西欧では、文明の発生からずっとつねにワインが社会において重要な位置を占めていた歴史があることに大きく関係するのではないだろうか。このあたりが、日本人には感覚的に理解しづらい点ではないのだろうか。

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そして、プログラムには載ってなかったが、ユネスコの日本大使、という人がやってきた。会議の主催者の教授も彼をVIP 待遇で扱い、会議に特別参加した。

ユネスコの日本大使なんて、アグネスチャンか黒柳徹子かって思ってたけど(あ、あれはユニセフ?)、ただのおっさんで日本大使ってのがいたんだね。きっと官僚出身かと思われますが。

さて、このおじさんが晴れの会議で何を語るか、わたしは興味津々。なにせ大使と呼ばれる人をナマで見たことなどない。

フランス語はへただそうで、英語で話したのだが、終始、ブルゴーニュに対するおべんちゃら、でありました。
曰く、わたしはブルゴーニュワインが大好きで、ブルゴーニュの風景もすばらしく、間違いなく世界遺産に選ばれることだろう、てな感じ。

いや、招待された相手先をほめるのは大事でしょう。外交マナーってやつでしょう。
でもね、仮にも日本大使だ。日本を代表する人なのだから、日本のことを世界に発信して、理解を深めてもらうってのが、至上の仕事なんではないだろうか。
会場にいるのはヨーロッパ人ばかりだし、全員、学者やジャーナリストなんだから、日本のことを発信するには絶好のチャンスではないか。

なのに、日本のことには一言たりとも触れなかった。

この手のやからが外交を担うから、いつまでたっても日本は海外できちんと理解されないんだ。
フランスにいると日本のことがいかに知られていないか、日々痛感するが、言葉の壁もあって日本からの発信が少ないのが最大の原因だと思う。ならば、多少は語学の能力のある、しかもそれで公金を貰っている人々は精一杯努力すべし。
とっても悲しくて、腹立たしかった。
(それに、こいつは会場にいる唯一の日本人のわたしに目もくれようともしなかった。海外にいる日本人に気配りするのも仕事じゃないのか? 同伴していた妻も同じ態度。超上から目線だったぞ)



15h : Visite d’un domaine viticole.
 最終日のご褒美は、ドメーヌ訪問。2チームに分かれて、それぞれClos des LambreとClos de Tardを訪ね、テイスティングをさせてもらった。

 これにて、無事終了。
 頭はしびれるほどに疲れたけれど、なかなか有意義で、観光審議会の委員として日本の観光のあり方を考えている身としては、たくさん刺激を受け、ヒントももらった。

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ユネスコの会議 2日目

初日よりさらに発表者が詰まった2日目。ふー、しんどい。

けれど、連日の好天で、真っ青な空に黄色く色づいたぶどう畑の風景はほれぼれするほど。さらに中世そのままのChateau de Clos-vougeotが会場であり、この景観の価値を考えようというシンポジウムにはうってつけのシチュエーションだった。


9h30 : Luca BONARDI (Universita degli Studi di Milano, Italie) : ≪ Les paysages viticoles de terrasses ≫.
ただひとりイタリアから参加。テラス状のブドウ畑の専門家だ(どんなジャンルにも研究者はいる)。テラスというのは日本で言うと棚田のようなもので、急斜面にブドウを植えるために斜面を階段状に作っているぶどう畑をいう。これが結構各国にあって、イタリアではValle d'aostaとかCinque terreがそう。
テラスがある地域の共通項は貧乏なこと。住むのにも不便、やせた土地。そして、水の処理が問題だそうで、排水溝や井戸が必ず作られているそうだ。しかし、ご多分に漏れず、だれも面倒な労働はしたくないからこの手の畑はどんどん減っている。経済的付加価値が生まれないと、この景観は維持できない。イタリアでもドイツでもすでに補助金を出して保護に乗り出してもいるという。日本の棚田も仲間に入れてもらえばいいのに。

10h00 : Hans SCHULTZ (Universite de Wiesbaden / Geisenheim, Allemagne) : ≪ Paysages et vignobles des vallees du Rhin et de la Moselle ≫
こちらはドイツからの参加。ドイツのワイン産地といえばライン河とモーゼル河沿岸だが、これまたびっくりするような急斜面にぶどうを植えている。
 当然、労働はきびしく、だれもやりたがらないのだが、かといって機械化も難しいのだが、最近、急斜面でも小回りが効く、一人乗りのトラクターができたそうだ。しかも剪定から消毒までさまざまな作業を1台でこなせるという。さらには、ロボットも登場したんだとか。さすが、便利や機能を追求することにかけては日本の上を行く(ということはフランスの遥か先を行く)ドイツだけのことはある。

10h30 : Jean-Marc BOURGEON et Olivier JACQUET (Universite de Bourgogne) : ≪ Crise du phylloxera et mutations du paysage ≫
 我が(!?)ブルゴーニュ大学の若手研究者2人による発表。フィロキセラがどのようにフランスを侵食し、どれほどワイン産業に影響を与え、景観が変わったかを説明。これも何度も聞いた話。

11h00 : カフェ休憩
*L’impact du vignoble sur les paysages :Naissance et valorisation d’un patrimoine.
11h15 : Jean-Marc VALOTTON (Architecte ? Urbaniste, Suisse) : ≪ Les paysages viticoles au patrimoine mondial : l’exemple de Lavaux en Suisse ≫
 スイスのレマン湖湖畔にもブドウ畑が広がっている。やはり急斜面に展開しているテラスのブドウ畑。しかしスイスはもともとそういった傾斜地や山間部に小さい集落を形成する国ゆえ、畑と集落が一体となった風景にスイスの独自性があるという。
 ぶどう畑の景観に価値がうまれるのは、ただ畑だけではダメ、急斜面だからといってそれだけでもダメ。別の要素も加わっての価値だという話。

11h45 : Michele CONSTANS (Ecole Nationale de Formation Agronomique de Toulouse-Auzeville) : ≪ Le patrimoine paysager viticole de Banyuls entre reconstruction et destruction≫
バニュルスというワインは、日本のワイン教科書的にいえば、唯一チョコレートに合わせられる、とされている。その知識しかなかったが、今回の発表でバニュルスはスペイン国境に近い地中海沿いの地域で、ひなびた寒村なことが分かる。写真で見るに、かわいそうなほどの急斜面でこんなところで働くことを想像するだけで、息が切れてしまいそうだ。ここもまた水はけが重要課題で水路が確保されそれが畑の景観にもアクセントとなっているのだが、通常は乾燥が激しいので自然発火の山火事で畑が消失してしまった(ふんだりけったり)。畑の再建も始まっているのだが、やはり問題は経済。これだけきつい労働の上に生まれたワインといっても価格からいえばそれは加味されていない。
 いやぁ、景観を守れ、伝統を残せ、とお題目を唱えるのは簡単だが暮らしている人の生活との兼ね合いを考えると、本当に困難なことだと思う。

ランチ休憩----------------------
14h00 : Philippe ROUDIE (Universite de Bordeaux III) : ≪ la construction d’un patrimoine : dessinateurs, photographes, cartographes et autres imagiers du paysage viticole bordelais ≫
 絵画や古い地図に見られるボルドーのワイン産地としての歴史を語った。すでに世界遺産に指定されているボルドー代表ゆえ、余裕の解説。

14h30 : Patrick DEMOUY (Universite de Reims Champagne-Ardenne) : ≪ Patrimoine viticole des abbayes de Champagne au Moyen-age ≫
こちらも世界遺産になったシャンパーニュ地方を代表して。ランスの大聖堂のステンドグラスにはさまざまなワインにまつわる挿話が描かれている。

15h00 : カフェ休憩

15h15 : Jean-Pierre GARCIA et Marion FOUCHER (Universite de Bourgogne) : ≪ Le patrimoine bati du Clos-Vougeot et de sa perrieres ≫.
会議が開かれているクロブジョの建物そのものについての研究発表。すでに講義で聞いた話だが、現在はシャトーなどと呼ばれているが本来は修道院の施設であり、石積みを調べると11世紀から数世紀にわたり増築、改築がされている跡をたどることができる。何事も研究者というのは対象が狭く、それを深く探り、しかし派手な結果がでることは滅多になく根気の要る仕事だとつくづく思う。

15h45 : Christophe LUCAND (Universite de Bourgogne) : ≪ Proprietes viticoles et patrimoine familial en Bourgogne ≫
ブルゴーニュの細かいAOCの制定にまつわる話。

16h15 : Philippe d’ALLAINES (President de l’Association des Vins d’Abbayes) : ≪ Les abbayes cisterciennes du sud-est de la France et le patrimoine viticole ≫
当人はちょうどヴァンダンジュと重なったために欠席。代理の人が挨拶のみ。収穫中だったのか、手がぶどうの汁で真っ黒に染まっていた。

16h45 : Roger BESSIS (Universite de Bourgogne) : ≪ Le patrimoine biologique de la vigne ≫
ぶどうの遺伝子研究という風景とは少々毛色の違う分野の研究者。犬のブリーダーならぬ、ぶどうのブリーダー、というんだそうだ。

17h30 : Discussion animee par Philippe ROUDIE (Universite de Bordeaux III)
質疑応答。なぜぶどう畑はほかの農村風景に比べて特別視できるのか?ぶどう産地の景観の定義はいかに?といった問題定義。ラングドックのおじさんが、テラスのぶどう畑のワインとそうでないもの(実際は同じワイン、またはそうでない景観の方が質が高いワイン)をブラインドでテイスティングしたら、いずれもテラスのワインの方をおいしいと評価した。Paysageのイメージの効果が付加価値を生んでいる?

18h00 : Concert - Ensemble Dimitri : Simon Bouveret au violon, Gregoire Vecchioni a l’alto, Francois Robin au violoncelle.
会議終了後の本日のご褒美は、弦楽三重奏の演奏。演奏は学生さんだったのでさておき、演奏会場となったクロブジョの一室に掲げられている言葉を記しておく。
 "Jamais en Vain, Toujours en Vin"
 同じ発音のVainとVinをかけたもので、空しいことはなにもない、いつもワインがあれば、てな感じ。


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閑話休題。これ何だ? 

まさか、フランスで見るとは想像だにしていなかった。

これは何だか、分かる?

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いまの日本でちゃんと答えられる人がどれくらいいるのか。
正答率を調べてみたいものだ。

 
 「su-mi-tu-bo」

 この名前がフランス人の口から出たとき、わたしは一瞬耳を疑った。
 遠い日の記憶がよみがえる。
 我が家に出入りしていた大工さんが使っているところを、当時から好奇心あるれんばかりの幼児だったわたしは、目を輝かせて見ていた。
 ぴーんと糸をのばして、ぱちんとはじくと、あら不思議、板にまっすぐで無駄のない線がすーっと引かれている。
 
 奇妙なフォルムなのに、ものすごく実際的で機能的。大工さんの仕事振りを私は飽きることなく眺めていた。

 しかし、以来数十年、たぶん一度も実物は目にしていないと思う。

 それが、フランス人の家庭にあったとは・・・。


 夕食に招かれたそのご夫妻は、ともにアーティストなのだが、彼らの作品を見せてもらっている中に、墨壷を用いた直線で構成した作品があったのだ。彼らは日本滞在中に古道具屋で見つけ買い込んだのだそうだ。フランスにも似たようなものはあるが、朱肉(墨肉)ではなく、粉を使い、日本のものほど機能が優れていないという。

 しかし、まったくもって驚いた。
 墨壷ねぇ・・・
 
 ちなみに、彼らは、たたみとふとんの愛好者でもある。日本の我が家にはすでに畳の部屋は存在していないというのに・・・。
 

 日本らしさは、いまや日本のなかではなく日本好きの外人の暮らしに残るばかりなのか。


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ユネスコの会議って?

 いまだよく理解できていないのだけど、わたしの通っているブルゴーニュ大学の醸造学部には、ユネスコの研究機関なり教授ポストなりが置かれている。
 その名も "Culture et Traditions du Vin" つまりワインの文化と伝統、というもので、醸造のテクニックとか、ブドウの栽培とか、一般にワイン学科として思いつく方向とは異なり、歴史と文化の側面に絞り込んだ、まさにわたしが目指しているテーマそのものを研究している。
 ここに所属している教授や研究者がわたしたちに講義をしたこともあるし、わたしにすれば同じ学部の建物に研究室を持つ同じ先生方だと思っていたのだが、どうも紐付きの先、つまりお金の出所が違うみたいだ。彼らの研究は、ユネスコが主導している世界遺産=有形、無形の文化遺産を保護するという活動にリンクしているようである・・・ということが、今回のシンポに参加してやっと理解できた。トホホ。

 さて、10月1日から3日間、このユネスコが主催する『Les Rencontres du Clos-Vougeot』という、学会というのかシンポジウムというのか、世界の学者が集って研究発表をする会が、ブルゴーニュ地方のワインの伝統を象徴する建物、シャトー・クロブジョで行われた。
 一日中、フランス語の研究発表を聞くなどというのは、かなり苦痛なのだけど、今年のテーマが『Paysages et Patrimoine des regions viticoles 』、意訳するとワイン産地の風景遺産、というものなのだ。
 
 これは、まさにわたしがいま最も関心のある景観保全に深く関わるものなので、つらいことは承知で駆けつけた。仲良しのクラスメイトも参加するという心強さもあったけど。(ちなみに日本人及びアジア系はわたくし一人きり。ワインを学びに来ている日本人はすごく多いけど、景観には興味がないようだ)

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とりあえず、研究発表を記録する。
10月1日木曜日
 開会の辞、に引き続き、初日のテーマ *Nature et vigne : du donne au construit に関しての発表が続いた。

10h00 : Conference d’ouverture : Joel ROCHARD (Institut Francais de la Vigne et du Vin) : ≪ Diversite des paysages viticoles du Monde ≫
 会議の幕開けとして、世界のさまざまなワイン産地の風景を紹介。地方によって実に変化にとんだ風景が形作られており、それぞれが地域の文化や歴史に裏付けられたいることを語った。ちなみにユネスコの世界遺産としては、フランスではボルドーのサンテミリオン、ロワール河流域、イタリアのチンクエテッレ、ポルトガルのポルトとドゥオーロ川上流、オーストリアのヴァッハウ渓谷、ドイツのライン河流域などが認定されている。
 しかし、なにごとも経済性、効率性が優先される今日、生活と労働が入り混じって農村風景が形成される小規模な農業は減り、伝統的な景観が失われつつある、また景観を評価する基準、指標が必要ではないかという問題定義をした。

11h00 : Jorge TONIETTO (EMBRAPA, Uva e Vinho, Bento Goncalves, Bresil) : ≪ Climats et paysages viticoles ≫
ブラジルからの参加。ワイン産地の気候を独自の分析システムで38タイプに分類できるという発表

11h30 : Eric VINCENT (INAO) : ≪ Le role des vignerons dans la conservation du paysage ≫ フランスのワインを全面的に管理している組織INAOの人が、AOC (原産地呼称)システムが有効に守られることにより地域独自の風景も維持される。

ランチ休憩 ----------------------
14h00 : Alain CARBONNEAU (SupAgro Montpellier) : ≪ Architecture de la vigne et paysages viticoles ≫ アーキテクチャー、つまり一般には建造物に関して用いられる用語だと思っていたのだが、彼はワインのブドウ畑の景観にそれを用いた。確かに、畝が整然と連なり、斜面を区画して耕作してできあがった景観は建造物といえるのかもしれない。彼の研究によれば、大きく50の建築様式(ぶどう畑の仕立て方のこと)に分類できるそうだ。おもしろい概念だと思った。また、景観は、ミクロ、メソ、マクロの観点と四季それぞれとを掛け合わせ、計12通りの景観が同じ地域にも語られるべきだ、との発表であった。

14h30 : Jacques FANET (Directeur du Syndicat des Coteaux du Languedoc) : ≪ Les paysages viticoles du Languedoc ≫ ラングドック地方の生産者組合代表。ゆえに大学の教授陣とは雰囲気が異なる。ラングドック独特の地形、地中海に面し、湿原地帯があり、小さな山地があり、背後に広がる壮大な中央山塊との間に抱かれたワイン産地は、一般に大規模農業、大量生産で安価なワインのイメージがあり大雑把にしか捉えられていないが、なかにはこの地方にしかない複雑な地形があることを紹介。ミネルヴォワ・・コルビエール・・など、そういった場所に新しいAOCが次々と誕生している。
 また、彼はPaysage viticoleには3つの要素がある。自然的要素と人が耕作してきたこと(この2つはテロワールで括られる概念だ)これに景観を見ている人の視点が加わるという。分かりやすく言うと、ラングドックの景色を見ながら飲むラングドックワインは、よりおいしい、ということ。

15h00 : Aubert DE VILLAINE (President de l’Association pour le Classement des Vignobles de Cote-de-Nuits et de Beaune, des Villes de Dijon et de Beaune au patrimoine Mondial de l’UNESCO) : ≪ Les Climats de Bourgogne : la nature et les hommes ≫ ユネスコの世界遺産に立候補しているブルゴーニュからのアピール。ブルゴーニュ地方にどのように細かいClimatが発生したか、という講義で何度も聞いた話なので新鮮みなし。

15h30 : カフェ休憩

15h45: Ivanira FALCADE (Universite de Caxias do Sul, Bresil) : ≪ Les paysages de la Vale dos Vinhedos (Bresil) ≫ ブラジルの女性教授。ときおりフランス語につまるけど、たいしたものだ。ブラジルのワイン産地の説明。また、景観を作り上げるうえで、生産者の規模を取り上げた。小規模生産者ならそこに家を持ち地域の暮らしと共存するが、中規模になれば雇われサラリーマンが増え、大規模になっては味も素っ気もない広大な風景が現出するばかり、であると。

16h15 : Fernando BIANCHI DE AGUIAR (Universite de Tras os Montes, Portugal): ≪ La specificite des paysages du Douro ≫ ポルトガルの北部、ポルトの上流にあるドゥオロの畑は、わたしも行ったことがあるが、人間の力でここまでやるか、と驚くほど見渡す限りの山肌がすべて畑に仕立てられている地域だ。これまで訪れたwine産地の中で最も印象が強かった。すでにユネスコ世界遺産。

16h45 : Jean-Pierre CHABIN (Universite de Bourgogne) : ≪ La roche et la pierre dans la genese des paysages viticoles cote d'oriens ≫ ブルゴーニュの地層が石だらけ、という話。これまでの講義で何度も聴かされた話。

17h15 : Robert CHAPUIS (Universite de Bourgogne) : ≪ Paysages reliques et paysages reconstitues : le cas des vignobles du Doubs et de Haute-Saone≫ フィロキセラの害により、いかに多くのぶどう畑が姿を消したか、という説明。20世紀初頭までフランスのブドウ畑は現在の100倍の面積があったという。

18h00 : Degustation animee par le Bureau Interprofessionnel des Vins de Bourgogne.
真面目に発表を聞いたご褒美か、ブルゴーニュワインのテイスティングが行われた。白はPouilly Fuisse とChabli 1er cru、赤は…うーん忘れた。でも、白が1本ブショネだとわたしが指摘したのだが、その時点で半分は減っていた。ぶどう畑のプロでもデギュのプロじゃないのかなぁ。


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